2016年3月4日金曜日

Don’t shoot the messenger. メッセンジャーを撃つな

今日のランチタイムには、同僚ディックとWaterfrontというパブに行きました。話題の中心は、月曜のランチタイムにあったウェブ会議です。これは最近南カリフォルニア地域のトップに就任したP氏の催したもので、ディックは都合で参加出来なかったのですが、既に大勢のPM達から感想を聞いているとのこと。

「皆の発言を総合すると、どうやらとんでもない内容だったみたいだね。」

とディック。最近テキサス州ヒューストンからロスに引っ越して来たというP氏は、空軍出身のコワモテ。30分ほど喋りまくったのですが、その間ジョークのひとつも笑い声もなく、一貫して「君達はダメだ。このひどい状況を改善しなければならない。」というメッセージを繰り返すばかり。

冒頭、「Imperatives」と題した4つの行動を説明するP氏。え?インパラティヴ?初めて聞く単語です。プレゼンを聞きながら辞書を引いたのですが、今一つ意味が呑み込めないまま会議(演説?)が終了しました。

「ビジネス・シーンじゃなかなかお目にかからない言葉だよ。」

とディック。

「課題とか行動目標ってこと?」

「いや、そんな生易しいものじゃないね。文章の四タイプっていうの、学校で習わなかった?」

列挙して説明するディック。

Declarative Sentences(平叙文)
Imperative Sentences(命令文)
Exclamatory Sentences(感嘆文)
Interrogative Sentences(疑問文)

「つまり、Imperativesってのは命令だよ。それも、ビックリマーク付きの強烈な奴ね。やれ!とか、やめろ!とかね。それにしても、会社のプレゼンにそんな言葉を使うかね。」

驚きを隠せない様子のディック。どうやらP氏は、ビジネス用プレゼンに我知らず軍隊用語を持ち込んだみたいです。

「僕がもっと驚いたのはね、」

と私。

「会社を去ったPMのプロジェクトを引き継いだ場合、30日以内に内容を精査し、重大な問題があったら上司に報告、それを基にRe-baseline(計画・目標の再設定を)せよ。これ以降に起きた問題は全て君たちの責任になる、そういう言い方をしたんだよ。既にオーバーワーク状態のPM達にいきなり誰かのプロジェクトを押し付けておいて、30日で全てを理解せよと要求するのは、かなり無理があると思うんだよね。」

ディックも大きく頷いて同意します。

30日のくだりで、彼は更にこう言ったんだ。」

“We’re not gonna shoot the messenger.”
「我々はメッセンジャーを撃たない。」

これは頻繁に使われるフレーズです。この場合のメッセンジャーとは、「悪いニュースを伝える人」という意味。つまり、プロジェクトを精査していて何か深刻な問題が見つかったとしても、隠さずに報告せよ、そのことで罰したりはしない、と言いたいのでしょう。このセリフ自体には問題無いのですが、私が気になったのはその使い方でした。

「プレゼン中、彼はこのフレーズを三回も使ったんだよ。そんなに何度も繰り返されたら、真意を勘繰りたくなるでしょ。それに、30日間の猶予を与えるという但し書きを加えた時点で、31日目からは容赦なく撃ちまくるぞ、という脅しにも聞こえるじゃない。」

「うん、皆も言ってたよ。あれはプレゼンじゃなくてお説教と脅迫だって。」

とディック。軍隊式の鉄拳統治をうちのような会社に適用しようなんて、随分思い切った話です。

「まあでも、会社のトップが彼みたいな人物をあのポジションに据えるには、それだけの理由があるはずだよね。これから恐怖政治が始まるのはほぼ確実だ。」

暗澹たる気分で昼食を頬張る、中年男二人。私の頭には、軍服姿のコマンダーPが銃を構え、整列したPM達を無表情で一人ずつ処刑していくイメージが浮かんでは消えて行きます。まるで同じ幻影を目にしていたように、

「手遅れになる前にさっさと転職して行く社員も少なくないだろうな。」

と苦笑いを浮かべるディック。

「あ、ちょっと待てよ。来週あたり、社員アンケート調査が始まるんじゃなかったっけ?」

と私。全社員に対する無記名の意識調査が毎年3月上旬に実施されることを、急に思い出したのです。さっと顔色が明るくなるディック。

「そうだ!皆でアンケートにボロクソ書けば、おっさんを辞めさせられるぞ!」

「彼はこの会社に来て日が浅いから、まさかそんな調査があるなんて知らないんだろうね。」

「うん、最悪のタイミングで俺たちを追い込んだことにまだ気が付いてないな、きっと。」

ほくそ笑む二人。一気に形勢逆転です。圧政に屈しそうになっていた群衆が銃を手に立ち上がり、独裁者を包囲して一斉に銃口を向ける図に変わったのでした。


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