2015年7月3日金曜日

Badass  バッドアス

先週の水曜。サンフランシスコの大物、アレクサンドラからメールが届きました。

「沢山の人から推薦があったんだけど、本社の新しいポジションに応募してみたら?」

現在、個々に独立して使用されている複数のプロジェクトマネジメント関連ツールを束ねて一つのプログラムに統合する動きが進んでいる。これを統括し、更には各国の支社を巡ってトレーナーを養成するためのトレーナーを探しているというのです。PM経験とトレーニング経験の両方が重視されているのだと。おお、これは面白そうだ。

「窓口はロスのジェニファーだから、連絡してみて。」

さっそくジェニファーにメールを送って「興味あり」と伝えたところ、大至急履歴書を送ってくれ、とのこと。応募者との面接を進めている最中だから、と。え?こんなキワモノの仕事に応募する人がそんなに大勢いるの?と心底驚く私。自分ひとりしか名乗り出ないんじゃないか、と高を括っていたのです。

今週の火曜日、ジェニファーとの電話面接がありました。技能、経験面での条件をクリアしていることを確認すると、彼女がこう言いました。

「今、候補者を絞り込んでるところなの。あなたは最終候補の一人よ。でも話を進める前に、大事な条件を言っておくわね。これから半年以上、ほとんど家に帰れないわよ。オーストラリアに一カ月行ったと思ったら一旦戻って、次に中東に一カ月、その後はニュージーランドに一カ月、という風に、長期出張の連続なの。これ、大丈夫?」

職務内容に「出張が多い」とは書いてあったけど、そこまでとは予想していませんでした。

「そりゃまた極端な条件ですね。」

今の仕事と掛け持ち出来るような内容だったらいいな、と甘い期待をしていた私。これは間違いなく、完全な本腰を要求されています。

「妻子ある自分のような人間には、大きな負担になりますね。何か特別手当とか、給料アップなどはあるんですか?」

思い切って尋ねる私。数秒言い淀んでから、ジェニファーがこう返します。

「これは人気のポジションなの。報酬面でのメリットは期待しない方がいいわ。」

期間は約一年。任務終了後のポジションについては、何の保証もありません。しかも、プロジェクトマネジメントのトレーナーというよりは、プログラム使用法の説明をする役割みたい。今の仕事で充分幸せな私にとって、一切合財投げ捨てて乗り換える船としては、いささか不安です。家族とも相談した結果、丁重に辞退しました。

昨日の昼休み。キッチンで弁当箱を洗いながら、若い同僚のジェイソンに顛末を話しました。

「本当に何人も候補者がいるのか、疑わしいな。海外出張したい奴なんて山ほどいるだろうけど、本当に教える技術のある人間は限られてるはずだよ。」

と不審顔のジェイソン。新婚の彼は、奥さんと付き合っている頃から毎年のように世界中を旅しています。来月は、ノルウェーから東欧まで巡る旅を予定しています。

「ま、俺だったらそこんとこは誤魔化して引き受けちゃうけどね。」

ここで彼が発した次の一言に、箸を拭く手が止まりました。

 “And I’d travel around the world like a badass.”
「そんでバッドアスみたいに世界中を旅して回るんだ。」

バッドアス(badass)?

「ちょっと待って。最後に何て言ったの?」

「ん?何が?」

「バッドアス(「ベダス」と聞こえます)とか何とか言わなかった?それどういう意味?」

文字通り訳せば、「悪いケツ」。何でそんなネガティブな言葉がここで登場するのか分からなかったのです。

「ああ、それはスーパークールっていう意味だよ。」

え?なんで?彼によれば、もともとは悪者を指す言葉だったのが、いつの頃からか反対の意味で使われるようになったのだと。う~ん、納得できないなあ。

「ワルの要素を含んでるの?」

「いや、ワルの要素ゼロでも使われるよ。」

そこへ、ランチを終えてさっきから自分の食器を洗っていたバーバラが参入します。

“I swam with a whale shark. That was a badass experience.”
「ジンベイザメと一緒に泳いだのは、バッドアスな体験だったわ。」

彼女は先月休みを取って、メキシコでボランティア活動に従事しました。その際、巨大なジンベイザメと一緒に泳ぐという稀有な体験をしたのです。この時の映像を、先日皆に披露してくれました。

「スーパークールって意味だけど、勇気ある行動だったっていう含みがあるわね。かなり恐かったもん。」

「おお、なるほど。」

「勇敢さは確かに大事な要素だね。つまりbadassは、スーパークールでタフな奴を指すんだ。」

とジェイソン。

Baddass
スーパークール・タフガイ

ぴったりした日本語が見つからないので、英語を英語で訳すという愚を犯すしかありません。それにしても、ワルの要素を抜きにしてるのにワルと呼ぶところが、どうも腑に落ちません。

「まだちょっとピンと来ないけど、なんかいい感じだねえ。僕もbadass になりたいよ。」

そう私が言うと、ジェイソンとバーバラが同時にこう返しました。

“You already are!”
「もうなってるじゃん!」

え?そうなの?どうも有難う、と答える私。

なんか、褒められたのかどうか分かりにくい…。


4 件のコメント:

  1. もしかしたら、キミが痔もちなのを見破られているのでは(笑

    ジンベイザメと泳いだってのは天然モノと泳いだってことなのカナ?ジンベイザメは臆病な生き物なので、危ないことはないんだけどね。沖縄には生簀の中で飼っているジンベイザメと泳がせてくれるところがあります。これはこれで、なかなかの感動だけどね(要ダイビングライセンス)。
    http://www.top-mz.com/

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  2. 5秒ほど考えてしまったよ。幸いにも痔主ではないので、Badass の意味をそこへ結び付けては考えなかった! なるほどね。
    ジンベイザメは天然だったよ。メキシコ湾。バーバラはシュノーケリングで楽しんだそうです。おとなしいと言ってもあのスケールだから、ひれの一振りであの世へ行くかもしれないよねえ。僕は怖くて無理。沖縄でトライしたの?すごいね。

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  3. 天然もののジンベイに出会うのはかなり奇遇なことらしいんで、それは貴重な体験だね。
    沖縄の生簀はお金を払えば行けるアトラクションなのでスゴいことはないケド、確かに大迫力だったヨ。

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  4. よく考えたら、ジンベイザメがおさまる生簀がある、ということ自体がオドロキ。沖縄ってすごいな。

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