2015年1月25日日曜日

Nerves of steel 鋼鉄の神経?

建築部門の大出血プロジェクト10件に加え、終結を迎えた空港プロジェクトのPMを任されて以来、まるで「消防ホースから水を飲む (Drink from a firehose)」ような状態が続いています。毎日複数の副社長たちから問題プロジェクトの経営状況に関する質問が飛び込み、「経営改善策を大至急作成してくれ」などというリクエストを一日に何十本も受け取ります。当然、ほとんどのメールに返答する時間もないので、未解決の課題がみるみる山積されていく。

電話会議では出席者が総じてカリカリしており、中にはためらいも見せずに怒りをぶちまける人も。

「一体全体、なんでこんなことになったんだ?」

プロジェクト開始からだいぶ経った時点で引き継いでいるので、答えられない質問も多く、時に禅問答のようなやり取りが続きます。更にタイミング悪く、11月から大規模な組織改編が始まりました。上層部にも新顔がちらほら加わって来て、プロジェクトの背景を全く知らない彼らからすれば、いきなり火のついた爆弾を渡されたようなものです。パニックになって直接電話して来る副社長も。

PMのサポートというお気楽ポジションを10年以上楽しんで来た私ですが、人並みに「ストレス」を抱えるようになりました。誰よりも早く出社して誰よりも遅く退社する毎日。しかもその間、まともに呼吸した気がしないほどの猛烈なプレッシャーが続きます。

金曜の朝も、LA地区の建築部長に就任したばかりのジョン、北米の建築部門を代表する東海岸のリック、サンフランシスコからサンディ、それから私のプロジェクトのディレクターを務めるビバリーとの電話会議がありました。全員が副社長。ジョンはこのプロジェクトに一時関わっていたこともあり、私の出した数字に対して極度に苛立っています。

「去年の10月頃、各部門のリーダーが集まって作り上げたコスト予測はどこへ行ったんだ?

「ビバリーと私とで年末に作り直した予測を基にしたんですが。」

「それは断じて受け入れられないぞ。どれだけ時間をかけてあれを作ったと思ってるんだ?」

彼女も私も、比較的新しいプロジェクト・メンバーです。情報が不足しがちな中、模索しながら必死に取り組んでいるのですが、その努力がちっとも認められていないように感じました。

結局無数のダメ出しを浴びた後、月曜の朝一番までに書類を仕上げて再び会議で揉まれることになりました。これで週末出勤が正式決定です。電話を切ろうとした際、「ちょっと待った」とジョンが制します。正直、もういい加減にしてくれ、という心境だったのですが、彼が妙に落ち着いた声でこう言ったのです。

「この仕事を引き受けてくれて本当に感謝してる。色んな人と話したけど、誰もがシンスケのことを高く評価してるんだ。大変だけど、よろしく頼む。これを前から言いたかったんだけど、チャンスが無くてね。」

え?そんな展開?動揺する私。慌ててお礼を言うと、今度はビバリーがジョンに同調します。

「ジョン、その話を切り出してくれて有難う。私も同じ気持ちなの。」

おいおいなんなんだ?ふたりとも。気持ち悪いぞ。

「別の会議でもシンスケの話題になってね。皆にこう言ったの。Shinsuke has a very quiet demeanor, but he’s got nerves of steel.(シンスケってすごく静かな物腰だけど、鋼鉄の神経を持ってるのよ。)」

あれえ?なんだかものすごい勢いで褒められてるみたいだぞ。

「二人とも有難う。これで更にプレッシャーが増大したよ。」

と、ふざけながら切り返す私。

午後になって空港のオフィスに向かいながら、さっきのビバリーのセリフを思い返していました。なんなんだ?「鋼鉄の神経(nerves of steel)」って。図太いっていう意味か?だとすれば単純な褒め言葉じゃないかもしれないぞ。素直に喜び過ぎたかも。

オフィスに着いて、同僚の一人でシアトルから出張していたジョンに解釈を尋ねてみました。

「大丈夫。それは間違いなく褒め言葉だよ。」

「でもさ、神経が鉄で出来てるって言われたら、バカにされてるようにも感じるんだけど。たとえばどういう人のことを言うの?」

そうだな、と少し考えてから、彼がこう答えました。

「燃え盛るビルの中から助けを求める人に気が付いたら、迷いも無く飛び込めるような人だね。」

おお、それはスゴイ。強靭な精神力を備えた、勇敢な人のことですね。滅茶苦茶かっこいいじゃないか…。

帰宅して妻にそれを報告すると、

「日本人サラリーマンのすごさを見せつけてやったってわけね。」

確かに…。渡米するまで毎晩2時3時まで働いてタクシー帰りを繰り返していた彼女にとってみれば、今の私の働き方なんてちょろいもんです。実はちょっとだけ「心が折れそう」になっていた私。これでシャキッとしました。

2 件のコメント:

  1. シンスケ様
    なかなかハードな職場のようですね。途中から引き継ぐ問題あるプロジェクト、上層部の入れ替わりによる継続性の欠落、苦労してまとめたプランをひっくり返される、などストレスの要素が満載です。そんな状況でも真摯に取り組むシンスケさんだからこそ得られる評価なのだと思いました。
     現在、私の抱えているプレッシャーやストレスなんかはたいしたことのないと、気づかされました。シンスケさんを見習って頑張ります。

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  2. コメント有難うございます。分かって頂けて嬉しいです。どんなにキツくても涼しい顔で乗り越えるのが理想なんですが、なかなか難しいですね。目標は、イチロー選手のようにこつこつとヒットを打ち続けることです。頑張ります。

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