2013年9月1日日曜日

Contingency コンティンジェンシー

月曜日の夕方、ダウンタウン・サンディエゴ支社のトレイシーからメールが来ました。

「水曜日のスタッフ・ミーティングで5分くらい枠を空けるから、財務関連のトピックで何かプレゼンしてくれない?」

スタッフ・ミーティングとは、月に一度社員が全員集合して情報交換を図る会議です。こんな突然のリクエストでも、快く引き受ける私。というのも、話したい内容が既に頭にあったのです。

それは、Contingency(コンティンジェンシー)。

コンティンジェンシーを辞書で引くと、「不測の事態」とか「不確実性」などという訳が出て来ます。プロジェクトマネジメントの世界ではKnown unknowns(予測しうる不測の事態)をコンティンジェンシーとし、そのために積んでおく予算をContingency Reserveと呼びます。プロジェクト予算の話をする際は、この積立金自体を「コンティンジェンシー」と呼ぶのが一般的。英治郎には「偶発損失積立金」という、一口では飲み込みにくい漢語和訳が出ていますが、私が無理やり意訳するとすれば、これ。

かもしれない予算」

事故防止のために「かもしれない運転」を推奨する人がいますが、プロジェクトの予算を作成する際にもやはり、「重要な現場作業のタイミングで大雨が降るかもしれない」とか「主要メンバーが突然解雇されるかもしれない」などという不測の事態を組み込んでおくべきなのですね。特にその事態が起こった場合にかかるコストをクライアントに請求出来ない、つまり我々自身で賄わなければならない場合、これをプロジェクトの予算に予め含めておかないと大変です。不測の損失が続けばPMの組織内での信用は落ちるし、財務部門を含めた上層部からの質問攻めや資料要求に忙殺され、本来業務に集中出来なくなるのです。成果品のクオリティも落ち、スケジュールは遅れ、じわじわと泥沼に…。

「そんな地獄を見ないためには、きっちりコンティンジェンシー(かもしれない予算)を積んでおきましょう。」

プレゼンを締めくくると、皆が大きく拍手してくれました。

ミーティングを終え、席に戻って間もなく、同僚のPMシェインがやって来ます。

「プレゼン有難う。勉強になったよ。質問していいかな?」

彼の口からは、折角積んでおいたコンティンジェンシーを財務部のシェリーに削除させられたことがある、という聞き捨てならぬ実話が飛び出しました。プロジェクトの内容をよく知らない人間が、PMに向かってコンティンジェンシーを減らせと指示するのは明らかに越権行為です。もしそれが本当なら、シェリーと事を構えなければなりません。

「ちょっと待って。もう少し詳しく話してくれる?」

いきなり結論に飛びつく前に事態の詳細を知っておこうと、深掘りを開始。そうしてシェインから話を聞くうちに、じわじわと真相が明らかになって来ました。

「整理すると、こういうことだね。クライアントがコンティンジェンシーとして積んでいた予算を、プロジェクトの収入として見込んでいた。それをシェリーが予算から削れと言ってきた、と。」

「そうそう、そうなんだよ。」

「シェイン、それは僕の言ってるコンティンジェンシーとは別モノだよ。」

「え?なんで?」

クライアント側のコンティンジェンシーは「彼らにとっての」不測の事態。それが発生すれば我が社に業務が発生し、業務量に見合った金額が支払われるでしょう。しかし発生しなければ何も支払われない。それを当初から我が社の収入として見込んでおくのは、いわゆる「とらぬ狸」な発想なのです。まだ見込むのは早いから予算から削っておけ、というのは財務部として当然の判断。

「じゃ、シンスケの言ってたコンティンジェンシーはどういうこと?」

「我が社のコンティンジェンシーはクライアントの支払いと関係ないんだよ。我々のコンティンジェンシーは我々の支出であるのに対し、クライアント側のコンティンジェンシーは我々にとって収入なんだ。僕は支出の話をしてたんだよ。」

「そうか、な~るほど。やっと分かったよ。有難う!」

この後、先日支社長に就任したテリーがやってきて、私のプレゼンを誤解してる人がいるようだ、と指摘してくれました。

「クライアントのコンティンジェンシーとうちのコンティンジェンシーをごっちゃにしてる人が多いのよ。次にプレゼンする時には、その点を解きほぐしてから説明した方がいいと思うわ。」


う~む、こいつは痛い!どっちのコンティンジェンシーかを誤解する人がいる「かもしれない」という予測をし損なった、私のミスでした。

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