2013年2月23日土曜日

不思議の国、日本

昨日の晩、職場の同僚たちと「和ダイニングおかん」へ繰り出しました。「日本食を楽しむ夕べ」というこの企画、数年前から定期的に開いていたのですが、ここのところあまりの忙しさでお休みしていたのです。私の隣には半年前にコネティカットから異動して来たサラが座り、その向こうにエド、テーブルを挟んで私の真向かいに日系アメリカ人(83歳)のジャック、その横にマリア、リチャードと座ります。

 まずはひじきやインゲン、すき焼き風煮物などの大皿料理でスタート。ジャックとサラがベジタリアンなので、なるべく野菜中心で攻めました。魚介類は大丈夫だとサラが言うので、ホタテとサーモンのカルパッチョを注文。これが皆の大絶賛を呼びます。続いて「イイダコの唐揚」。ミニサイズのタコがそのまんま衣に包まれているのを見て、サラが固まります。
「あれ?タコ駄目だった?」

「ううん。足だけならOKなんだけど、まるまる全身っていうのはちょっと…。」
頭の部分を箸でちょん切って、マリアの皿に移すサラ。

「日本って、どのくらい面積あるの?」
藪から棒にマリアが質問します。カリフォルニア州くらいじゃないかな、と答える私。ここでマリアがiPhone を取り出し、日本や東京の人口、面積などを調べて発表し始めました。

「え?東京ってニューヨークよりも人口が多いの?」
と驚嘆する一同。ニューヨークより人が多い都市があるなんて、アメリカ人にはイメージしにくいのかもしれません。ここで私がお国自慢を披露します。

「そんな大混雑の東京だけど、ラッシュアワーの地下鉄は、三分とか五分おきにほぼ遅れなく到着するんだよ。しかも全車すし詰めでね。」
感心の声がテーブル上を飛び交います。ジャックが身を乗り出し、数年前に日本を旅行した際の出来事を話してくれました。

「お土産を一杯入れた買い物袋をね、東京の駅のどこかで失くしちゃったんだ。翌日その駅に行って尋ねたら、駅員が奥に探しに行って、一分もしないうちにその袋を持って出てきたんだよ。あれには感動したなあ。」
ここでエドが割り込みます。

「俺なんかボストンで、ベンチの上にカメラを置いて数秒間横を向いただけでスラれたことあるよ。」
アメリカでは失くした物が返ってくることなどまずない、という常識を裏付けるような体験談を、皆が代わる代わる紹介します。

この後エドがトイレに立ち、席に戻ると皆に、
「俺が入ったら便座カバーが自動で開いたぞ!」

と驚愕の報告をします。続いてトイレに立ったマリアは用を済ませて出て来たのですが、その場に立ちすくんだまま小さな声でリチャードを呼びます。彼をトイレに招き入れて席に戻った彼女に、皆が説明を求めます。すると、
「どうやって流すのか分かんなかったのよ。」

と当惑顔。タンクの側面にハンドルがついてたろ、とエド。え?そうだったの?とマリア。
日本ではトイレが喋ったり滝の音が聞こえたり、便座の使い捨てカバーが自動でするするっと出て来たりするよ、って話をすると、皆が爆笑。信じてくれたのかどうか不明です。ここでジャックがウォシュレットの体験談を披露し、

「あれはいいぞ!」
と絶賛します。アメリカでは全く普及していないウォシュレット。大きなビジネスチャンスだと思うんだけどなあ。

「あ、トイレで思い出した。」
とエドが、サラと私にとっておきのジョークを教えてくれました。

男友達が緊急入院したというので見舞いに行くと、ベッドで呆然と天井を見つめています。何があったんだ?と聞くと、わけを話してくれました。彼が前の日に最新型のトイレに入って大きい方をしていたら、目の前に三つボタンがある。最初のボタンを押すと温水が出てきてお尻を丁寧に洗ってくれた。感心して次のボタンを押すと、暖かい風が吹いてお尻を乾かしてくれた。更に感心して次のボタンを見ると、横に「ATE」と書いてあります。エイティーイー?何だそれ?と暫く考えたのですが分かりません。まあいいや、とそのボタンを押した友人。で、その後すぐ病院に担ぎ込まれた、というのです。
「で?ATEって何なの?」

サラが尋ねると、エドはちょっと困ったような顔で、
「ゴメン。不適切な話題だった。忘れてくれ。」

と話を切り上げてしまいました。ここまで聞いといてオチが分かんないんじゃ気分が悪いじゃない!と食らいつくサラ。仕方なく、エドが彼女に耳打ちします。途端に顔を赤らめて笑い始めるサラ。
「ちょっとちょっと!それは無いんじゃない?ちゃんと教えてよ!」

と訴える私に、今度はサラが耳打ちします。
“Automatic Tampon Extractor.”
「自動タンポン引き抜き機」

5秒くらい考えてから、ようやくツボに入る私。
「やだ、シンスケが爆笑してる!」

と更に笑うサラ。それまで他の話題で盛り上がっていた向かい側の三人が、なになに?と急に興味を示します。

「やだよ。もう絶対言わない。」
と口を閉ざすエド。


デザートには、黒蜜プリンと黒胡麻プリンを注文。黒胡麻の見慣れぬ色調に、一同どよめきます。これ、よもぎ色と灰色を混ぜ合わせたような、非常に微妙な色なのですね。
「セメントみたいだな。」

こわごわ覗き込むリチャード。やめてよ!と言いながら一匙すくって口にするサラ。
「何これ?めちゃくちゃ美味しいじゃない!」

この一言を合図に、スプーンを持った手が四方から伸びました。

そんなわけで、アメリカ人の皆さんに「不思議の国、日本」をしっかり堪能して頂いた夜でした。

2013年2月21日木曜日

Can we talk shop? 仕事の話していい?

昨日の昼休み、ダウンタウン・サンディエゴ支社の休憩室で弁当を食べていたら、同僚ミケーラが話しかけて来ました。仕事に関する質問がある、と言うのです。

プロジェクトの予算を立てる際、コンティンジェンシー (Contingency Reserve) を組み込むことが多いが、契約形態が タイム・アンド・マテリアル(Time & Material)の場合には使うべきでないと聞いた。それは本当か?そして何故か?というのが彼女の質問。
プロジェクトの実施に先立って、起こって欲しくないけど起こるかもしれない事態を予測し、そのための準備金を予算に組み込む。これがコンティンジェンシー (日本語では「偶発損失準備金」と言うみたいです) で、通常はFirm Fixed Price (定額契約)のプロジェクトに適用します。

これをどうしてタイム・アンド・マテリアル契約に適用すべきでないのか?例を挙げながら丁寧に解説し、納得した彼女が立ち去った後で、最初のセリフが蘇って来ました。ミケーラは確か、こう言ったのです。
“Can we talk shop?”
「ショップを話せる?」

何を聞かれたのか分からず固まっていると、彼女は私の答えを待たずに質問を始めたのでした。
さっそくこの後、同僚ステヴのオフィスを訪ねます。

「ああそれはさ、仕事の話ってことだよ。勤務時間外に誰かと仕事の話をしたい場合に使うフレーズなんだ。たとえば夜、同僚とバーに行くとして、当然仕事を離れたセッティングだから、業務関連の話題を持ち出すのは不適切でしょ。」
「ふうん。でもショップって何よ?ぴんと来ないんだよね。」

「ショップは仕事って意味もあるんだよ。」

「え?そうなの?」

これは便利なフレーズを憶えました。確かに、飲んでる席でどうしても仕事の話をしたい時なんかは、こういう軽いノリの切り出し方が有効だと思います。
“Can we talk shop?”
「仕事の話していい?」

2013年2月18日月曜日

You Belong with Me


職場の同僚達と晩飯を食べにメキシカン・レストランへ出かけたところ、飛び切りキュートなウエイトレスが我々の横を通り過ぎました。よく見ると、なんとこれがテイラー・スウィフト。ええ?嘘でしょ。そんなわけないよな…。同僚たちに、
 
「ねえ、これ夢なの?」
と尋ねると、夢じゃないよ、なんで?と怪訝な顔で私を見つめます。窓の外に目をやると、どうやらこのレストランはJRの駅前。「稲毛海岸駅」らしき看板が遠くに見えます。え?日本?

そのうちテイラー・スウィフトが我々のテーブルにやって来て、無料マッサージをしてくれると言います。私が頼むと、肩や首を丁寧に揉んでくれました。呆然と彼女の後姿を見送った後、チップをあげ忘れたことに気づきます。慌てて後を追い、
「さっきは有難う。これ、チップね。」

20ドル札を渡しました(思い切って奮発)。ニッコリ笑って厨房に消えていくテイラー・スウィフト。
「ねえみんな、やっぱりこれ、絶対夢でしょ!」

席に戻って確認したのですが、同僚達は口を揃えて、違う違う、現実だよ、と真面目な顔で首を振ります。

で、ここでようやく目が覚めました。
「そりゃそうだろ!」

ベッドに横たわったまま、自分につっこむ私。稲毛海岸あたりで気がつきそうなもんだけどなあ…。夢ってフシギ。ううむ、寝相が悪かったのか、ちょっと首が痛い。

それにしても、なんでテイラー・スウィフト?

よく考えてみたら、前の日に彼女の曲を繰り返し聴いていたのでした。だからって夢にまで出てくるか?あ、そうだ。代表曲に “You belong with me” てのがあるんだけど、このタイトルがずっと気になっていたのです。Belong の後には必ずto が続くと信じていたので、 “Belong With” というフレーズの微妙な違和感が心にひっかかっていたのですね。
さっそく本日、若い同僚のサラに質問してみました。

「そうねえ、Belong to は所属とか所有を意味してるけど、人間関係を表現する時には使えないわね。例えば I belong to a book club. (私は読書クラブに所属しています。)とは言うけど、He belongs to me. とは言わないもの。」
「じゃさ、どういう関係にあったら He belongs with me. って言えるの?読書クラブで会った男性を指して、He belongs with me. って言ったらどういう関係?」

Dating (付き合ってる)ってことかしら。」
「ってことは、すごく親密な間柄なわけだね。」

「ちょっと待って。う~ん、分かんなくなって来ちゃった。自信ない。」
そこへ、壁を隔てた隣の席でこの会話を聞いていたアルフレッドが、助け舟を出します。

「同じカテゴリーに属している人間関係ってことだと思うよ。今、ネットで調べてみた。」
「ありがと。でもそれ、具体的にはどういうこと?」

「たとえばさ、ある作家の本が図書館のどこにあるかを説明する時、 “Dickens belongs with Hardy and Austen.” って言うんだって。」
「じゃさ、男女の関係ではどうなるわけ?」

「同じカテゴリーにいるんだから、二人はぴったりフィットしてるってことになるよね。」

そうか!これで分かりました。
You belong with me.
あなたには私がお似合いなの。
サラもアルフレッドも、

「今まで一度も深く考えたことなかったよ。面白かった!」
と興奮気味。


夢にまで現れて、「疑問を解決せよ」と肩を揉んでくれたテイラーちゃん。感謝です。

2013年2月17日日曜日

Corner Office 角部屋オフィス

先日、同僚のトリナを横に座らせてコスト予測の方法論を教えていたところ、突然彼女の両目が潤み始めました。え?どして?なんか変なこと言ったかな?と戸惑っていたら、涙が頬を静かに伝わり落ちました。少し落ち着くのを待って理由を尋ねたところ、

「こんなに頑張ってるのに誰からも感謝されないばかりか、時間をかけ過ぎだって小言を言われるの。」
彼女がサポートしているプロジェクトは、請求書の様式に関するクライアントからの要求が異常に細かい他、財務上の制約が多いため、コスト管理のためのデータ処理が複雑なのです。私がやっちゃえば一時間で済むことも、データ扱いに不慣れなトリナは四、五時間かけてしまう。元々これは彼女の得意分野じゃないのですが、他に人手がないので仕方なくやらされている、というのが実態。

「毎日のサービス残業に加え、土日まで使ってただ働きしてるのよ。それでも厭味を聞かされるなら、一体私にどうしろって言うのかしら?」
ここのところ、同僚達がほぼ漏れなく疲労困憊状態に陥っています。情け容赦ない人員整理の結果、ひとりひとりの社員が複数の役割を掛け持ちし、極限ギリギリまで働く体勢が定着してしまいました。廊下で立ち止まって無駄話をしたり、誰かと一緒に一時間ランチに出かける、なんて機会もぐっと減りました。

皮肉なことに、会社の株価は破竹の上昇を続けております。上層部はホクホクでしょうが、前線に立つ者たちは燃え尽き症候群の一歩手前。同僚シェリルと会った時も、嫌気のさした笑顔でこう言いました。
「成果品のクオリティは間違いなく落ちてるわ。レビューをする連中だって、かけられる時間が3分くらいしかなかったりするでしょ。技術屋のプライドなんかとっくに吹っ飛んじゃってるわよ。B級品だと分かってる成果品を提出したい人なんて誰もいないけど、締め切りに間に合わせるのが精一杯な状況でしょ。皆もう諦めちゃってるのよね。」

かく言う私も、ちょっとヤバイ状態です。「頼まれたらノーと言わない」ことを信条にしていたのですが、もうとてもそんな余裕は無い。可能な限り依頼を断るようにしています。先日、部屋の前を通りかかった同僚リチャードを呼び止め、調子どう?と尋ねたところ、彼も超多忙だと答えました。みな同じだね、と笑い、
「仕事が無いよりよっぽどいいけど、こんなのがずっと続くかと思うと正直キツいよ。」

とこぼす私。
「会社としては、イヤなら辞めてもらって結構ってところだろうね。景気がこう悪くちゃ転職も容易じゃないのは承知してるだろうし。実際、隣の芝生は青い(Grass is greener on the other side of the fence)ってヤツで、他にもっと良い条件の仕事があるかどうかだって怪しいよ。」

とリチャード。
「ま、結論としては、置かれた状況に感謝して生きよ、ってことだよね。自分がいかに恵まれているかを思い返せば、辛いことも乗り切れる。自分には健康な身体があり、素晴らしい家族がいて、…。」

冗談めかす私を遮り、リチャードがこう言います。
「平均的な社員と較べても、シンスケはすごく幸せなポジションにいると思うよ。」

「え?そうなの?」
「そうだよ。成功してるって言ってもいいんじゃないかな。コーナーオフィスで働いてるし(“You have a corner office.”)」

私は思わず大笑いし、そうだそうだ、僕はシアワセだ、元気付けてくれて有難う、と会話を締めくくりました。

しかしその後、この言葉がだんだん気になり始めます。コーナーオフィス?角部屋?確かに私の部屋は建物の角部分にあります。
“I have a corner office.”
「コーナーオフィスで働いてる。」

これが出世している社員を指す表現であることは知っていました。角部屋には大抵大きな窓があるため、何かお偉いさん的な風格があるようなのです。でも、どう考えても私はそんな大物じゃない。第一、私の部屋は総務の人からあてがわれたものだし、隣の会議室の給湯スペースを押し込まれた結果いびつな台形になっていて、他のどの部屋に較べてもずっと小さく不恰好なのです。特別なステータスを感じたことなど一度もありません。リチャードがどういうつもりであんなことを言ったのか解せなかったので、数分後に彼を訪ねました。
「あのさ、さっきのコーナーオフィスってさ、あれジョークで言ったんだよね?」

すると彼が真面目な表情で、
「なんで?だって本当にコーナーオフィスでしょ。」

と答えました。しばらく待ったのですが、「なんちゃってね」というセリフが出てきません。冗談なのか本気なのか、結局分からないまま彼のオフィスを後にする私でした。

アメリカ人の同僚に、「あいつは出世街道を突き進むエリート社員だ」と思われているかもしれない。このことを考えて、暫く角部屋でニヤつく私でした。

2013年2月9日土曜日

必殺の陪審員逃れ

先日の夕方、同僚シャノンがやってきて私のデスクの脇の椅子にどすんと腰を下ろしました。

「この忙しいのに、金曜からJury Duty が始まるの!」

Jury Duty (ジューリー・デューティ)というのは、アメリカ国民の義務。たとえ仕事で超多忙でも、他人の裁判の陪審員を務めるために出頭しなければいけないのです。私も二年に一回くらいのペースで召喚状を受け取りますが、「アメリカ国民ではない」という理由でお断りしています(というか、私には権利が無い)。生粋のアメリカ人は、余程のことがない限りこの義務から逃れられません。
「罪状が酔っ払い運転か薬物中毒だったら、ほぼ間違いなく辞退出来るんだけど…。」

とシャノン。
「叔父のひとりが酔っ払い運転の前歴があるし、もうひとりの叔父が薬物中毒だから。」

つまり、身内に似た境遇の人がいたら判断にバイアスがかかる可能性があり、「不適格」として篩い落とされるだろう、というのです。
「僕は一度くらいやってみたいけどなあ。」

と私。
「シンスケは楽しんでやれそうよね。私すぐ感情的になっちゃうから、陪審員には向いてないと思うの。責任の重さを考えただけでプレッシャーになるし。」

「僕はさ、裁判映画の見過ぎかもしれないけど、ちょっとした憧れもあるんだよね。」
そこで私は名作映画の題名を挙げます。「12人の怒れる男」「アラバマ物語」などなど。

「冷静沈着に事の真相を考え抜き、皆をまとめて最良の結論へ導くっていうの、最高じゃん。」
「私、密室で初対面の人たちと議論するって状況を考えただけでもうイヤなのよね。」

「でもさ、弁護士の弁舌をナマで聞く機会もなかなか無いでしょ。」
「弁護士なんて、一人残らず嘘つきよ。」

「え?」
シャノンは弁護士事務所で何年も働いたことがあるそうで、そこにいた6人の弁護士が6人とも、とんでもない嘘つきだったというのです。

「誠実な人なんて一人もいないの。屁理屈を重ねて相手を言いくるめることしか考えてないのよ。弁護士なんて、誰も信用出来ないわ。」
何か非常に不愉快な記憶を呼び覚ましてしまったようで、シャノンが顔を歪めました。しかし次の瞬間、ぱっと表情を輝かせて叫びます。

「あ!その手があった!弁護士なんて皆嘘つきで信用出来ないって言いまくればいいのよ。」
にんまりと笑って、シャノンが何度も頷きながらこう締めくくりました。

「これで間違いなく逃れられるわ。」

ふうん、そこまでイヤなの…。こうなると、召喚された本人が嫌がっているのに「国民の義務だから」と陪審を無理強いするのが、本当に正しいことなのかどうか分からなくなります。不承不承務める陪審員に己の運命を握られる被告の立場を想像すると、ちょっとぞっとします。

2013年2月3日日曜日

CRS 健忘症

先日、 “Forgetting Sarah Marshall”(邦題「寝取られ男のラブバカンス」)というコメディ映画のDVDを借りて来ました。原題を直訳すると「サラ・マーシャルを忘れるために」で、彼女に別れを告げられた男が主人公のドタバタもの。話がスタートしてわずか10分ほどで、いきなりこの男がすっぱだかになります。更になんと、イチモツがどどーんと丸出しに!ええっ?流れから考えて、そこまでする必然性あるか?

ここでふと、そもそもなんでこの映画を借りたんだっけ?という疑問が浮かびました。普通はiTunes をブラウズしてレビューを読み、これは良さそうだ、と思ったら図書館のデータベースで検索して予約、という手順を踏むのですが、この作品に関してはそんな記憶が無い。ううむ。なんでだろ?
二日ほどして同僚マリアと会った時、なんとなく直感があり、

「ねえ、Forgetting Sarah Marshall の話って僕としたことない?」
と尋ねました。彼女はちょっと戸惑ってから、急に記憶が蘇ったように、

「あ、したかも。うちの妹一家を訪ねてオーストラリアへ行った時の話じゃない?」
と答えます。

「そうそう!やっぱりマリアだったか!」

随分前に、彼女からこの映画の話を聞かされていたのでした。マリアの滞在中に、みんなでDVDを観ようということになり、妹さんがこの映画を借りて来たのだとか。彼女のご主人が、
「これって子供に見せても大丈夫 (age appropriate) なのか?」

と尋ねると、妹さんが真顔で答えます。
「うん、わたし前に見たもん。すごく面白かったわよ。」

14歳の娘と12歳の息子も一緒に鑑賞し始めてわずか10分。どど~んと丸出しシーンが登場します。
「一体どういうつもりだ!」

動転してテレビのスイッチを切るご主人。マリアが妹さんを見ると、ぽかんとした顔で暫く黙った後、
“I forgot that part.”
「この場面忘れてた。」

と呟いたのだそうです。

“How could you forget it?”
「どうしたら忘れられるっていうのよ?」
と驚くマリア。
 

そうそう、彼女からこのエピソードを聞かされた後、すぐに図書館のホームページで予約したんだった!ようやく記憶が蘇り、すっきりしたのでした。
さてその後、同僚リチャードの部屋を訪ねてこのエピソードを話しました。

「最近、本当によく物を忘れるんだよね。病気とかそういうのじゃないとは思うんだけど、時々ちょっと心配になるよ。日本語ではこういうの、Kenbosho(健忘症)って呼ぶんだけど、英語にそういう単語ってあるの?」
彼は暫く考えた後、

「そうだなあ。具体的な病名を挙げるのは問題あるからねえ。何かなあ。」
と上を向き、

「そうだ。Brain Fart ってのがあるよ。」
「え?ブレイン・ファート?」

Fart というのは「おなら」のことです。「脳のおなら」?自分の部屋に戻ってネットで確認したところ、これは「ど忘れ」のことでした。違う違う!探してたのは「健忘症」なんだよ。

その後、マリア、リチャード、元ボスのエドと、サンディエゴに出張中のエリカを連れてランチへ行きました。私があらためてこの話題を切り出したところ、皆で「なんだろう」と悩みだし、最後にエドがこう言いました。

「CRS(シーアーレス)だな。」
隣でエリカがくすくす笑います。

「うちのばあちゃんがこれだった。」
とエド。

「何の略ですか?」
と私。

“Can’t Remember Shit.”
皆で大笑い。これはCRS Syndrome (CRS症候群)のようにも用いられる言葉だそうです。Shit とは「くそ」のことですが、否定的な文脈で何か「もの」を指す時にも使われます。直訳すると、「な~んも憶えられん」でしょうか。

この単語、いつまで覚えてられるか自信ありません。