2012年4月2日月曜日

Dude デュード

ダウンタウン・サンディエゴ支社には、150名ほど社員がいます。私は仕事柄、そのほとんどと親しく会話したことがあるのですが(皇室みたいな物言いだけど)、最近になって、そんな恵まれた立場にある人はごく一部なのだということを知りました。それぞれ専門分野が特化しているため、普通に仕事している分には隣の部署の社員と喋る機会も理由も無い訳です。

この支社では、そういう状況を打破するためか、毎月「Lunch Lottery(ランチくじ)」という企画を実施しています。月次スタッフ・ミーティングの最後に、シャッフルした名簿から参加者がランダムに4人選び、選ばれた社員がその月のうちに一緒にランチへ行く。費用は会社持ち、というプログラム。話す機会の無かった4人の社員が、こうして無理やりに行動をともにすることで、横の繋がりを作る。そこからイノベーションが生まれる、というわけ。今の会社に買収されるまでは、「一番勤めたい会社」のトップランクに入るような人気企業だったこの組織、さすがに一味違うな、と感心しました。

今週のスタッフ・ミーティングで、総務のトレーシーが、
「先月のランチ・ミーティングの報告を聞きましょうか。」
と言い、いきなりジョシュを名指ししました。彼は先月の当選者の一人だったのですが、何も準備していなかったことは明白で、ちょっと気の毒になるほどうろたえて口ごもりました。
「まずは参加メンバーを紹介してくれる?」
と優しく助け舟を出すトレーシー。ほっとする聴衆。

しかし、ジョシュは更に動揺の度を高めます。え?誰とランチに行ったかも憶えてないの?とざわつく社員たち。
「ええと、そこにいるランディでしょ。」
と指差すジョシュ。マーケティング部門のランディ(女性)が
「あら良かった。私はちゃんと憶えてもらってた!」
とおどけ、場を和ませます。ジョシュはそれから暫くキョロキョロし、ようやく新人社員のコリーを見つけて指差し、

“And… That dude.”
「それから、そこのデュード。」

と、困惑した面持ちで声を搾り出しました。一同爆笑。明らかにコリーの名前を忘れているジョシュ。私のすぐそばに座っていたテリーが、小声でぼそっと皮肉を言います。

“Now we know how effective this program is.”
「これでこの企画の効果が分かったわよね。」

さて、この dude という単語ですが、「分かったようで分からない」言葉のひとつです。よく聞くケースは、「おい」とか「ちょっと」とか「あんた!」とかいう「突っ込み的な」ニュアンスの間投詞。

“What’s up dude? “
「よう、調子はどうだい?」
“Dude! That's an expensive hamburger!”
「お~っ!そいつは高いハンバーガーだな!」
みたいな感じ。

今回ジョシュが使ったのは、「奴」とか「人」とか、名前を特定しないで人物を呼ぶ際に使われる名詞。

“And… That dude.”
「それから、そこの人。」

問題は、この単語がどんな場面で使えるのか、ということ。今日の夕方、同僚のステヴとシャノンにこの質問を投げかけてみました。
「職場で使うのは避けた方がいいわね。ジョシュはああいう人だから大目に見てもらえるけど、他の誰もオフィスでは使わないと思うわよ。」
「僕が使ったらおかしいかな?」
と尋ねると、ステヴがクスクス笑いながら、
「ネイティブじゃない人が、しかもシンスケの歳で使うのは滑稽だと思うよ。そもそも、サーファーとかスケートボーダーとか、クスリでラリッた奴ら(Stoners)が使ってた言葉なんだよね。」
「じゃ、ステヴは使わないの?」
「う~ん、そうだな。例えばさ、夫婦でショッピングモールを歩いている時、誰かにチラシを渡されたとするね。よそ見していたうちの奥さんがチラシに気がついて、何それ、誰にもらったの?と聞く。で、僕が振り返ってさっきの奴を指差しながら、 “That dude.” と答えるわけ。」
「とすると、見下した感じ(derogatory) じゃないわけね?」
「うん、そうだね、ただインフォーマルな言葉だってことだよ。」

「名詞としてよりも、間投詞(injunction)として使うことが多いわよね。」
と、シャノン。これを受けてステヴが、デスクの上のiPhone を手に取り、
「誰かから、カッコいいデザインの携帯電話を見せられたとするじゃない。そういう時、Dude! って言うね。おい、こいつはクールな電話だな、というのを一言で表現するわけ。」
ステヴはもう一度、自分の iPhone をさも珍しそうに見つめてから、

“Dude!”

とやや大声で言いました。シャノンも少し遅れて「デュード!」と合わせます。私も一緒になってやってみたのですが、どうもしっくり来ません。

夕方の帰り際、じゃあまたね、とステヴに挨拶すると、彼がくるりと振り向いてニッコリ笑い、こう言いました。

“Good night, dude!”

う~む。なんか羨ましい。自分にはこの単語、ナチュラルに使えそうもありません。「英語学習者にとっての越え難い壁」とかいう大層な話ではなく、ただ単に「ガラじゃない」んだと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿