2011年11月27日日曜日

Plan for the worst, hope for the best 最悪に備え最善を望む

ここ最近、朝6時に出社して夕方6時前に会社を出る、というサイクルを繰り返しています。他の社員が現れて色々やり取りが始まる前に大量の仕事をやっつける。これは非常に効率が良い。それに、まだ月が出ている静寂の時間帯にガラガラのハイウェイを走るのは、何とも気分がいいのです。


先日の早朝、いつものようにバリバリ仕事を片付けていたところ、三つ隣のキュービクルで働く若い同僚のティファニーが、電話で会話を始めました。彼女も超朝方社員で、大抵二人同じ時間帯に出社するのですが、お互い勢いに乗って働いているため、これまでほとんど会話したことがありませんでした。仕切り壁をいくつか隔てているものの、彼女の口調が徐々に激して行くのが気になり始め、耳をそばだてていたところ、受話器を置くと同時にこう吐き捨てたのです。

“God damn it!”
「ガッデム!」

女性がこういう荒っぽい言葉を使う場面には滅多に出くわさないので、軽く驚くとともにちょっと笑ってしまいました。その数秒後、私の背後を通りかかったティファニーが申し訳なさそうな顔で、
「ごめんなさい。聞こえてた?」
私は好奇心に抗えず、一体何があったのか尋ねてみました。すると、現場に出ているオジサン社員にタイムシートの修正方法を丁寧に教えてあげたのに、その指示に従わずにまた同じミスをした、というのです。

ティファニーは考古学チームの一員で、しばしば発掘調査に出かけます。今回は現場に出ずに調査を仕切っているのですが、彼女は何をやるにも周到に準備して、きっちり仕事を片付けないと気がすまない、とのこと。だからケアレスミスを重ねる人は苦手なのだそうです。
「現場に行く時には、必ず余分な水と毛布、GPS装置、ナイフ、救急セット、その他色々持っていくわ。そのでかいバックパックには一体何が入ってるんだ?ってよくからかわれるけど、まさかのための手は完璧に打っておきたいの。チームで現場に行く際は、なるべくプロバイダーの違う携帯電話を皆で持っていくとかね。私のが圏外になっても他のメンバーの電話が通じるかもしれないでしょ。」

彼女の父さんは Navy SEALs(ネイビーシールズ、海軍特殊部隊)出身、お母さんは看護婦さんで、幼い頃から危機管理については徹底的に叩き込まれて来たそうです。家族でリスクマネジメントについて常に話し合い、何をするにも緻密に調査し、周到に計画を立て、きっちり遂行する。学生時代は大学近くのアパートは借りなかった、と言います。
「キャンパス周辺には必ず、若い女性を狙う変質者が住んでるの。そんなとこに若い女子学生が一人暮らしするなんて、バンビが狩猟地帯(Hunting Ground)に飛び込むみたいなものよ。」

いつからか、人相や仕草で他人の性格や心理が読めるようになったそうで、更には現在、働きながらForensic Science (犯罪科学)の修士号も取得中なのだと言います。
「何か質問されて、答える前にちょっと考えるでしょ。そこで右を向くか左を向くかで、その人が嘘をついているかどうかも大体分かるのよ。」
これについては同居中の彼氏が、たびたび不満を漏らすそうです。今こんなこと考えてるでしょ、などと突っ込まれ、「そりゃフェアじゃないよ!」と。
「じゃあ彼、浮気なんか出来ないね。」
と私が言うと、
「絶対不可能ね。」
と自信たっぷりに笑うティファニー。

畜生、もうちょっと気の利いたコメントが出ないもんかな、と己の凡庸さを呪い、急いでこう付け加えました。
「君は、リスクマネジメントの専門家としてプロジェクト・チームに必ず加えたい人材だよ。」
彼女はちょっと嬉しそうな顔をして、お父さんの座右の銘を紹介してくれました。

“He’s always said to me, plan for the worst, hope for the best.”
「父はいつも私に言うの。最悪に備え、最善を望めって。」

おお、これはなかなか良いフレーズだぞ、とその場で書き留めました。後になって、日本語で同じような慣用句はあるかな、と探したのですが、「人事を尽くして天命を待つ」も「備えあれば憂いなし」も、意味は近いけど微妙に違います。万全の準備をしたら後は静かに結果を受け止めよ、という無欲に近い境地を表現していて、「最善を望め」とするアメリカと較べると、いかにも日本的だな、と思うのでした。

帰宅して、妻にティファニーの話をしたところ、「仕草から心理が読める」というくだりですかさず、
「あら、じゃあ彼氏、浮気出来ないわね。」
と突っ込んで来ました。

夫婦で思考回路がまったく同じ。とほほです。

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